第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『三ツ首様の約束』
作品タイトル: 三ツ首様の約束 筆名: 詞使 今は昔の話である。尾道の海べりにある貧しい家に、賢く働きものの美しい娘が一人住んでいた。そう言った娘には思わぬ吉が訪れるもので、なんと名家の子息が娘に求婚してきたのである。身分差は大きいが双方の両親からの許しも得られ、二人はすぐ...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『やまなみ高走り』
作品タイトル: やまなみ高走り 筆名: 魔魅縄 麗らかに晴れ渡る春景色の中。 二つの異形が尾根道を奔る。一つは角張った体躯に蛙の手足。もう一つは、凸凹だらけの岩から蟹の鋏が突き出ている。その二匹がぴょこぴょこと跳ね、あるいはちょろちょろと横に走り、ひたすら南を目指していた...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『毛むくじゃらの首』
作品タイトル: 毛むくじゃらの首 筆名: 工房ナカムラ 「人が死ぬ音を聞いたことがありますか?」 市営駐車場に車を止めて海岸沿いをふたりで歩いていると、彼女は目を細め立ち止まってそう言った。 二度目のデート。昔暮らしていた尾道に行きたいというリクエストに応えてやって来た。...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『尾道物語』
作品タイトル: 尾道物語 筆名: 高橋 祐太 尾道の義母が危篤だという。つい先日、義父と一緒に東京へ遊びに来たばかりだったのだが。忙しい息子夫婦や娘夫婦たちに邪険にされ、私が会社を休んでまでして東京見物に付き添い、挙句に私のアパートに泊まらせてあげた。義父母はどちらも老齢の...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『待ち合わせ』
作品タイトル: 待ち合わせ 筆名: 中村 凡 数年ぶりに岡山の実家に出向いた婆ちゃんが、そこでぽっくり死んでしまった。夏場のことでどうしようもなく、現地に飛んだ父さんが火葬にして連れて帰った。 折悪しく、風邪っぴきで迎えに行けなかった爺ちゃんは、白い骨になって帰った婆ちゃん...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『聞いてはいけない』
作品タイトル: 聞いてはいけない 筆名: はちみつレモン 尾道には線路の下を通る道がいくつもある。私は尾道にやってきて初めて、線路を下から見るという経験をした。電車が通る時なんてそりゃもうすごい音がする。ガタンゴトンと轟音をたてながら、至近距離を電車が通っていくのだ。一度経...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『探さないでください』
作品タイトル: 探さないでください 筆名: シンオカコウ 目が合った、と思った。 海沿いを散歩中、通り過ぎようとした自販機の側面に、目のような絵が描かれていた。ストリートアートだろうか。商店街でも、本当はいけないのだろうが看板や壁に絵や文字がかかれているのを見かけたことが...
第2回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『②「山の記」 夏』
作品タイトル: ②「山の記」 夏 筆名: 北浦 一馬 海がみえた。海が見える。五年振りに見る、尾道の海はなつかしい。汽車が尾道の海へさしかかると、・・・林芙美子「放浪記」の第二部の八月をどうしても見たくて、八月五日からお盆前までの約束で、母に無理を言ってあの村で療養する為一...
第2回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『くらやみ尾道』
作品タイトル: くらやみ尾道 筆名: 早高叶 今日は一日、観光を楽しんだ。たくさん写真も撮った。でも民宿で夕食を食べた後、夜の散策に出たのが運の尽き。僕は今、完全に迷っている。真っ暗な坂道を何度上がり下りしたことか。人どころか猫一匹歩いていない。時折、家の灯りや街灯を見つけ...
第2回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『春の彼方』
作品タイトル: 春の彼方 筆名: シンオカコウ 小学校低学年のころだったと思う。季節は春だ。千光寺の桜が見事に咲いていた。近くに住んでいたから、よく千光寺の辺りで遊んだ。大抵は友人と一緒だったが、その日はひとりだった。 「桜の花びらを集めているんだよ」...