top of page

第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『尾道物語』

  • onomichikwaidan
  • 2021年2月10日
  • 読了時間: 2分

作品タイトル: 尾道物語  

筆名: 高橋 祐太

 尾道の義母が危篤だという。つい先日、義父と一緒に東京へ遊びに来たばかりだったのだが。忙しい息子夫婦や娘夫婦たちに邪険にされ、私が会社を休んでまでして東京見物に付き添い、挙句に私のアパートに泊まらせてあげた。義父母はどちらも老齢のため、頭の回転も喋るのも歩くのもすべてが遅かった。さながら生ける屍だ。

 なぜ私がせっせと相手をしなければいけないのか。頼まれたら断れない性格とはいえ、夫は八年も前に亡くなっているのに。朴訥な義父母は私を気に入り、ひたすら感謝してくれた。実の子供より他人のセツコさんのほうがよくしてくれると。私はちっともいい人じゃない。それに名前はノリコだ。何度、指摘しても間違えられる。

 亡き夫のことはもう忘れるべきだと言ってくれた。私だって新しい人生を歩みたい。だけど枕元に毎晩、夫の霊が笑顔で現れるのだ。まるで私を監視するかのごとく憑りついて。  尾道は遠かった。凪いで熱していた。着いた途端、義母はぽっくり逝った。喪服はわざと忘れたのだけれど、葬儀はまさかの正座で行われた。おまけに冷房もない。地獄を味わった。  一人ぼっちとなった義父は完全に抜け殻となってしまった。親族内で施設行きの話が上がっていた。もうこれで義実家とは縁を切れると内心、喜んだ。夫の霊が現れても知るものか。  だが、事態は悪化した。東京の私のもとに夫だけでなく義母の霊までが現れるようになった。二人して満面の笑みで。やたら人に親切にするもんじゃない。いずれ義父も加わるのだろうか……。


最新記事

すべて表示
第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『鬼退治』

作品タイトル: 鬼退治 筆名: 朔馬 瞠 誰か、自分を退治してくれないか。  いつのまに、こんなに大きくなってしまったんだろう。存在したいと思ったことは一度もない。いつの間にか存在し、自分であり自分でない者を苦しめる存在となっている。自分はきっと選択を誤った。その誤った選択...

 
 
 
第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『私の幽霊、孤独と迷子』

作品タイトル: 私の幽霊、孤独と迷子 筆名: 後藤 千穂 集団行動が苦手な私にとって、修学旅行は我慢の時間でしかない。せっかく宿に着いたのに、リーダー格の瑠香が玉の岩を見たいと言い出した。同室の子たちは誰も逆らわない。いつもなら、仲間外れになることを恐れて従う私だったが、そ...

 
 
 
第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『楠を翔る少女』

作品タイトル: 楠を翔る少女 筆名: 甲斐ミサキ Kさんが艮神社を散策していた時のことである。  明け方からもやっていた霧は初夏の日差しに追いやられ、今はさわやかな薫風が体をなぶっている。  拝殿の手前、樹齢900年の張り出した大楠の枝ぶり。...

 
 
 

Comments


Featured Posts

Recent Posts

CATEGORY

Follow Us?

画像はダミーです。

© 2016-2017 by Onomichi Tenohira Kwaidan

尾道てのひら怪談実行委員会・尾道市立大学地域総合センター

bottom of page