第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『鬼退治』
作品タイトル: 鬼退治 筆名: 朔馬 瞠 誰か、自分を退治してくれないか。 いつのまに、こんなに大きくなってしまったんだろう。存在したいと思ったことは一度もない。いつの間にか存在し、自分であり自分でない者を苦しめる存在となっている。自分はきっと選択を誤った。その誤った選択...
第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『私の幽霊、孤独と迷子』
作品タイトル: 私の幽霊、孤独と迷子 筆名: 後藤 千穂 集団行動が苦手な私にとって、修学旅行は我慢の時間でしかない。せっかく宿に着いたのに、リーダー格の瑠香が玉の岩を見たいと言い出した。同室の子たちは誰も逆らわない。いつもなら、仲間外れになることを恐れて従う私だったが、そ...
第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『楠を翔る少女』
作品タイトル: 楠を翔る少女 筆名: 甲斐ミサキ Kさんが艮神社を散策していた時のことである。 明け方からもやっていた霧は初夏の日差しに追いやられ、今はさわやかな薫風が体をなぶっている。 拝殿の手前、樹齢900年の張り出した大楠の枝ぶり。...
第2回尾道てのひら怪談光原百合賞受賞作品『噂話』
作品タイトル: 噂話 筆名: 河原清美 ねぇ、こんな話知ってる? そんな一言から始まった会話、塾の友人たちから聞いた噂話を思い出しながら帰路につく。 夜中に一人で長江通りを歩いていると見たことのない神社が現れるらしい。...
第2回尾道てのひら怪談光原百合賞受賞作品『祈り』
作品タイトル: 祈り 筆名: はちみつレモン 造船所の大きなクレーンが折り鶴に似ていると思うのは私だけだろうか。尾道からは向島の造船所がよく見えるので、クレーンを見るたびにキレイにおりこまれた折り鶴の頭を連想する。原爆の日を明日に控えた今日は、なおさらそう思う。...
第2回尾道てのひら怪談光原百合賞受賞作品『ウズクマル』
作品タイトル: ウズクマル 筆名: 岬とうこ 〈坂の町・尾道〉。今日も石畳の道を観光客が歩いている。カップルに家族づれ、あっちは女子大生のグループか。しゃべるわ笑うわスマホとやらで写真を撮るわ──こいつらは陽の当たる場所を好む。だから用はない。...
第2回尾道てのひら怪談東雅夫賞受賞作品『鯖大師』
作品タイトル: 鯖大師 筆名: 斎藤風狸 小学校一、二年のころ、夏休みに訪れた祖父の家で変なものを見た。海辺の町の暗い古い屋敷。「入るな」と言われていた奥の部屋に迷いこんだら、木製の仏像があった。畳の上にじかに置かれていたと思う。...
第2回尾道てのひら怪談東雅夫賞受賞作品『海走る輪』
作品タイトル: 海走る輪 筆名: カラベ 「そんなものを見たのは、あれ一度きりだった」と、その人は言った。 それは、レンタサイクルでしまなみ海道のある橋の上を走っていた時のこと。 「空と海に挟まれて、他に何もない中を走るのは最高だったよ。まるで海の上を走っているようだった...
第2回尾道てのひら怪談東雅夫賞受賞作品『尸』
作品タイトル: 尸 筆名: 楽市びゅう 千光寺の観音坂を転がり落ち、尾道の尾の字が尸と毛に分裂してしまった。 尸はシカバネであるのにも関わらず、自ら意思を持ち何れかの方角へ立ち去っていった。毛の道ではどうにも格好が付かない。毛道は尸を探しに出た。...
第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『城散歩』
作品タイトル: 城散歩 筆名: 石岡 博之 5年ほど前の事である。早朝の日課で散歩に出た。駅裏の商店街を抜け、階段とも坂道ともつかない斜面を登って行くと「天守閣」に出る。荒い呼吸に桜の馥郁たる香りが混じる。と、珍しく先客がいた。チェックのスーツに同じ柄の帽子を被った紳士然と...