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第2回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『②「山の記」 夏』

  • onomichikwaidan
  • 2021年2月10日
  • 読了時間: 2分

作品タイトル: ②「山の記」 夏  

筆名: 北浦 一馬

 海がみえた。海が見える。五年振りに見る、尾道の海はなつかしい。汽車が尾道の海へさしかかると、・・・林芙美子「放浪記」の第二部の八月をどうしても見たくて、八月五日からお盆前までの約束で、母に無理を言ってあの村で療養する為一人で訪れた。

 佐智子おばあちゃんは、尾道駅まで迎えに来て、尾道水道や芙美子ゆかりの場所をゆっくりと案内してくれた。

 山の中とはいえ真夏の陽射しに逆らえず、昼間は外に出ないでうとうとする。夜眠れないで熟睡するのは明け方になった。九日の朝、朦朧としていたが、一際大きな柏手で目覚めた。あの春の日より何倍もの人が集まっている様だ。

 佐智子おばあちゃんが夕焼けの頃、その家から少し下った川べりに連れていってくれた。昨日の夕立が大粒だったせいか轟々と水音のする青白く泡立ちのある深みがあった。今夜、ここにめずらしいものが出る。来ようねと誘われた。なんだろう怖い事かな?春のように。その夜、真っ暗闇に提灯がたくさんたくさん川に向かっている。


 どれぐらいの人が川べりにいるのだろうか?着くと灯りを消して静まり返って不気味だ。

「あ・あ・あー」私は思わず声をあげてしまった。川上から無数の灯りの塊が、川下からもう一つの灯りの塊が。その川の夕方見た深みに集まり乱舞し続けている。「蛍だ」何という明るさだろう。薄暗い中で両手を合わせて拝む人達がその灯りで判った。

 その夜、甜瓜の黄色い皮を剝きながら、佐智子おばあちゃんは、謂われを話してくれた。「昭和二十年八月六日に広島市内でピカにやられた村の十八の娘を父親が二日かけ大八車で連れ帰った。焼けただれて息をしているのも不思議だった。その日、隣の家の許婚の二十歳の青年の戦死した遺骨箱をみとめた娘は次の日の夜中、あの川に身を投げてしまった。その二人が蛍で結ばれる夜なんよ。」

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