第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『毛むくじゃらの首』
- onomichikwaidan
- 2021年2月10日
- 読了時間: 2分
作品タイトル: 毛むくじゃらの首
筆名: 工房ナカムラ
「人が死ぬ音を聞いたことがありますか?」 市営駐車場に車を止めて海岸沿いをふたりで歩いていると、彼女は目を細め立ち止まってそう言った。
二度目のデート。昔暮らしていた尾道に行きたいというリクエストに応えてやって来た。お昼はラーメンにするべきか、いや、見合い相手とのデートでラーメンはアリなのか、などと考えていた僕が突然の問いかけに戸惑っていると、彼女は返事などまるで期待していないかのように話し続けた。 「高校のころ、三者面談の日に当番が当たってゴミ捨てに行ったんです。もうひとりの当番がサボちゃったんで、私だけでゴミ箱抱えながら回りこんで、校舎の裏に差し掛かったところでアレが出て」 「アレ?」 「毛むくじゃらの首。バレーボールくらいの大きさで、ぽんぽんぽんって跳ねてきて」 「ちょっと待って。ぽんぽんぽんって、首が?」 「首です。目が合ったんですよ。ギラギラした赤い目。あ、顔がある。じゃ、これがアレなんだって気がついて。噂の毛むくじゃらの首なんだって。まずいなぁって思ってUターンして帰ろうとしたら、後ろでドサっと土嚢を落とすような音がして。一瞬しんとなって、上で叫び声、悲鳴かな、聞こえて。振り向かずに走って逃げたんですけど、あとで聞いたら面談中に突然飛び降りちゃったんだって。ああ私、人が死ぬ音を聞いてしまったって思って。毛むくじゃらの首が跳ね出たから、やっぱりこうなるんだなって」 「やっぱり?」 「だってここ尾道ですよ。毛と首が抜けたらどうなるかわかるでしょ。尸が来るんですよ」 そう言って彼女はなにかを見定めるように目を凝らした。つられて視線の先を見ると、ずっと遠くで黒い毛玉のようなものが、ぽんぽんぽんと弾んで消えた。
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