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第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『待ち合わせ』

  • onomichikwaidan
  • 2021年2月10日
  • 読了時間: 2分

作品タイトル: 待ち合わせ  

筆名: 中村 凡

 数年ぶりに岡山の実家に出向いた婆ちゃんが、そこでぽっくり死んでしまった。夏場のことでどうしようもなく、現地に飛んだ父さんが火葬にして連れて帰った。

 折悪しく、風邪っぴきで迎えに行けなかった爺ちゃんは、白い骨になって帰った婆ちゃんを見るなり叫んだ。

「尾道だ!あいつは尾道に行ったんだ!」

 ボケた。僕たち家族は慄然とした。

 あれから三週間、僕は爺ちゃんと尾道に向かう電車に揺られていた。毎日、尾道に行くと言い募る爺ちゃんに父さんが折れて、暇な僕がお目付役を仰せつかった。

「爺ちゃん、なんで婆ちゃんが尾道にいると思うの?」

 爺ちゃんは車窓の向こうの柔らかな海と緑の島々をじっと見つめて答えない。

 甘いような海風が吹く駅に着くと、爺ちゃんは確信ありげな足取りで坂の道を登り始めた。古い家屋敷が迫る曲がりくねった道を上がっていくと、やたらと着物姿の人とすれ違う。夏祭りでもあるのだろうか?時代錯誤な人々の群れの中を進むうちに、あっ!と短く声をあげた爺ちゃんが、黄色い団扇を手にした、若い、ふくよかな女の手首を掴んだ。絞りの浴衣を着たその女は驚いたように爺ちゃんを見て、それからゆっくり微笑んだ。

 婆ちゃんだ。僕にもそれが分かった。隣には爺ちゃんに似た、それよりもっと背が高い若い男が立っていた。

「一緒に行くのか?」爺ちゃんが聞くと婆ちゃんは、ゆっくり頷いた。

「そうか、幸せにな」

 爺ちゃんが手を離すと、二人とその周りの人達は陽炎のように揺らいで消えていった。


「婆さんは俺の弟と一緒になるはずだったんだ。戦争で死んで、俺がもらった」

 帰りの電車で爺ちゃんがポツリと言った。悔しい?と聞いても爺ちゃんは黙りこくっていたが、デイサービスで彼女をつくった。


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