第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『聞いてはいけない』
- onomichikwaidan
- 2021年2月10日
- 読了時間: 2分
作品タイトル: 聞いてはいけない
筆名: はちみつレモン
尾道には線路の下を通る道がいくつもある。私は尾道にやってきて初めて、線路を下から見るという経験をした。電車が通る時なんてそりゃもうすごい音がする。ガタンゴトンと轟音をたてながら、至近距離を電車が通っていくのだ。一度経験してから私はすっかりそれにはまってしまって、遠回りになろうとも高架下を通るようになった。
そして電車の轟音にも慣れてきた頃、何かが聞こえることに気がついた。聞こえると言っても轟音の中なので内容は全く聞こえない。ただ誰かが喋っているのが何となくわかるのだ。まあ顔を寄せ合って会話をしている人たちもいるから、そういう声がぼんやり聞こえてくるのだろうと思っていた。
でもそれは気がつくといつも聞こえてくるのだ。私以外誰もいない時でも。尾道のどこの高架下でも、だ。
はじめこそ不気味に思っていたが、自分に害があるわけでもなかったのでそのうち慣れた。それどころか何と言っているのか、次第に気になりだしてしまった。
声は男か女かもわからない上にひどく平坦で、聞き取りは難航した。しかし繰り返し耳を澄ませているうちに、何か問いかけをしていることはわかった。
もうこの頃には憑りつかれたように声のことばかり考えていた。私は得体の知れない相手からの問いかけを聞こうと躍起になって毎日高架下へ通い詰め、声は日ごとにりんかくがはっきりしていった。
そしてある日、いつになく鮮明に声が聞こえた。
「●●●は●●●ですか?」 あ、これは聞いたら駄目なやつだなと直感した。全部聞いてしまったら、たぶんもう取り返しがつかない。“これ”はそういうものだ。 それ以来、高架下は一度も通っていない。
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