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第1回尾道てのひら怪談一般投票特別賞受賞作品『瓢箪島 ひとりぼっちの無人小屋』

作品タイトル: 瓢箪島 ひとりぼっちの無人小屋

筆名: 牧本 敏秀

 瀬戸内海では、常識では説明できない怪奇現象がたびたび起きるという。私自身は怪奇現象的なものに遭遇したことはなかった。あの日が来なければの話しだが。

 私の実家は瀬戸内の小島にあり、帰省した時は必ず我が家の漁船で釣りに出かけている。それは今から二十数年前の夏のことだ。その日も朝から一人釣りに出かけ、夕方過ぎまで釣りに興じぼちぼち帰ろうかとエンジンをかけようとしたが動かない。故障である。船はそのまま漂流し、広島県と愛媛県境の瓢箪島に漂着した。携帯電話もまだ普及していない時代であり、このことを誰にも連絡しようもない。恐怖体験の始まりである。

 腹を決めてこの日は島に上陸して一晩明かすことと決めた。辺りも暗くなり始め船に載せてあった電池の切れかかった懐中電灯を照らしながら今夜の宿泊場所を探した。雑木林の中にぼんやり小さな小屋を発見した。誰が建てたか、誰が住んでいたか。中をそっと覗いてみたが、当然誰もいないので一晩お邪魔することにした。小屋の中は割合と広く、弱くなった懐中電灯の明かりも隅々までは届かない。小屋の中に見えない場所があるというのは人を不安にさせる。他人の痕跡が強く感じられ、しかも閉ざされているというのだから耐えられない。置き去りにされたビールの缶が二、三個転がっている。いったいどんな人が飲んだものか。じっと見ているとかすかに位置が移動したように感じ不気味だ。気になって何度も目を開けたり閉じたりを翌朝まで繰り返す。大きなストレスを感じた。翌朝外が白み始めたので、あの不気味さを覚えたビール缶も自分で回収し、早々に小屋を立ち去った。

 後のことだが、この小屋には身の毛もよだつような怪談話があったことを知った。それ以来船釣りを止めたことは言うまでもない。

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