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第1回尾道てのひら怪談大賞受賞作品『延命門』

  • 事務局
  • 2017年3月29日
  • 読了時間: 2分

更新日:2020年11月18日

作品タイトル: 延命門  

筆名: 籠 三蔵

尾道七佛めぐりの起点である持光寺は陶子のお気に入りの場所で、山陽本線の踏切を超えた急勾配の坂道を登り切ると、延命門と呼ばれる三十六枚の花崗岩で出来た独特の山門が聳えている。その向こう側の紫陽花の咲き乱れる花壇の前で、彼女は私を待っていた。 「元気だった?」という問い掛けに曖昧に頷くと、陶子は困ったような微笑みを返す。以前と寸分変わらない横顔に私の心は酷く痛んだ。色とりどりの紫陽花が境内のそこかしこを美しく彩っている。 無理をしなくてもいいのにと陶子の唇が言葉を紡ぐ。もう少しこのままで居たいのだと私が返すと彼女は俯いて、嬉しさと寂しさの入り混じった表情を浮かべた。 出会いの場所。初めてのデート。 そこで食したパスタの味。一緒に視た映画の記憶。 覚束ない口調での告白。はにかんだ彼女の柔らかな微笑み。 様々な想い出の会話は弾み、私と陶子は境内を巡りながら、束の間の幸せな時間を堪能した。 「陶子、僕は君の側に…」 呟き掛けた唇を、彼女の人差し指が遮った。 「駄目。あなたは私の分も、ね」 彼女は石造りの門を指差して呟いた。 「もうすぐ中陰が明けるの。いい人を見つけたら、私の事なんか早く忘れて」 閉門の時間が間近に迫る。 陶子は門の向こうで小さく手を振っていた。名残惜しげに彼女の顔を見つめ直す。私はここを潜れるが、陶子はもう、この門を潜る事は叶わない。 潜り抜ける都度に寿命が延びると言われる延命門とは、何と皮肉な名前なのだろう。 山門の石段を下る私の頬に、ひと筋の涙が伝わり落ちた。


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