第1回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『隙魔』
作品タイトル: 隙魔
筆名: でこぽん
人通りの途絶えた時に、物と物との間、建物と建物の間などの隙間から現れる怪異の総称。主な現象として、少しだけ開いた扉やたんすの間から視線を感じる、壁と壁の間から声が聞こえる、といったものが挙げられ、姿はさまざま。また、暗闇に何かがいる気がする(p.87)、自分の死角に何かがいる気がする(p.124) など類似の怪異は数多いが、似て非なるものなので注意が必要。出現場所は個人の部屋から街中まで幅広く、全国各地で確認されている。特に小路の多い京都府京都市東山区、広島県尾道市での証言が多くみられる。多くの場合人間を驚かせたり、怖がらせたりすることが目的で、危害を加えることは少ないとされている。しかし中には人間を連れて行くものもいるという噂もあるため、不用意に近づかない方が良い。 【事例】(広島県尾道市)人通りの少ない時間、尾道の小路を歩いていると、たまにおかしな人影に遭遇するという。自分が小路を曲がった瞬間、同じように1つ先の小路を曲がっていく人影が見える。最初は気に留めていなかったが、あまりに見かける回数が多い。一瞬しか見えない人影はおぼろげで、黒い髪で黒い服を着ているらしいことしかわからず、男か女かすらも判別できない。次第に気になりだして、姿を確かめようと歩くスピードを上げる。しかしどんなに早く歩いても、ついには走り出しても、前を行く人影に追いつくどころか姿を捉えることすらできない。息を切らしながら数え切れぬほどの坂を駆け上がり、小路を曲がり、ついに行き止まりに追い詰めたと勢い込んで小路を曲がると、そこには誰もいなかったそうだ。(『尾道民話』)