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第1回尾道てのひら怪談優秀賞受賞作品『走神』

作品タイトル: 走神

筆名: 剣先あおり

 中学・高校と過ごした尾道は坂の多い町として有名だが、地元にとっては道は狭いし、階段も多くて結構つらい。毎日坂や階段を上り下りすることで足腰も鍛えられていいですね、と言われたりもするが、平坦な道のほうが楽でいいに決まっている。  あるとき、学校まで行く道の階段に爺さんが出るという噂が流れた。見た目は身長百三十センチくらいの小柄な爺さんなのに階段を上る速さが尋常ではなく、見た目は普通に一段一段上っているのに気がつけば遥か先を上っており、上りきったところで消えるのだという。消える前に振り向くのだがその時の爺さんの顔がいかにもあざ笑うかのように勝ち誇っていて、それを見ていると怖いよりも憎たらしく感じるらしい。  そこで「打倒!爺さん」に燃えたのが近隣の運動部の連中である。我が校でもこれまで野球部、陸上部、サッカー部、柔道部と爺さんと遭遇するたびに勝負を挑んでいたが、悉く返り討ちに遭っていた。爺さんに負けたものは夜中にこむら返りに襲われ、それも脹脛だけでなく太腿まで攣る悶絶物の強烈な痛さだという。  だが爺さんに強力なライバルが現れた。転校生の山本だ。山本は帰宅部なのだが、階段の上り下りが異常に早く、猿人と呼ばれていた。  そんな山本が帰宅中に爺さんと遭遇するところを俺たちは見てしまった。爺さんは相変わらずマイペースで上がるが、山本も負けておらず、逆にペースを上げ、最後は三段抜かし、四段抜かしでついに爺さんを抜かしてしまった。勝者の山本曰く、爺さんは泣きそうな顔になっていたという。  山本のあだ名は猿人から走神に格上げされ、爺さんと勝負した階段は勝負階段と呼ばれるようになった。ここを一気に駆け上がると願いが叶うという根も葉もない噂が流れ、今日も中高生が必死の勢いで駆け上っている。

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