top of page

第1回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『花火』

作品タイトル: 花火

筆名: 山口 和史

その日がちょうど花火大会の当日と知り、会場へ足を運んだが、立錐の余地もない。 少し離れた場所に、展望台がある公園があると雑貨屋の婆さんに聞いた私は足を伸ばしてみることにした。 なるほど、花火の位置から離れてしまうが高台にある分、見やすく人もそれほど多くない。 打ち上がる花火は夜空のキャンパスに火の粉を投げつけ一瞬の絵画を見せてくれる。 花火が起こす一瞬の打ち上げ音の合間、真後ろで中年女性の喜ぶ声が聞こえる。 「キレイだね、楽しいね」 振り返ってみて驚いた。両脇を花火にはとてもにつかない地味な彩りの普段着に身を包んだ初老の女性二人に抱えられている。当の本人は目線が定まらない。 「すごいね、楽しいね」 どうやら目に障害があるようだ。本人は花火など見えていない。それでも前向きに楽しもうとしている。鬱屈した気持ちで尾道までやってきた自分を振り返って恥ずかしくなる。 「わあ、すごいね、キレイだね」 妙な気がした。両脇を支える二人の女性の声が聞こえない。 振り返ってみると、二人とも彼女に対してにこやかに話を続けている。 なぜ声が聞こえない? 不思議に思っているうちに、両脇の二人から打ち上がった花火がほろほろと崩れていくように、色彩が消えていく。 これは、と思っているうちに、3人いたはずの女性は1人になった。 花火の打ち上げが終わって数分後、女性の身内と思われる男性が迎えに来た。 「どうだった?」 「うん、楽しかった」 彼女が(恐らく)夫と思われる男性支えられているのと同時に、すでに鬼籍に入った見えない女性たちの加護も受けているのが、その笑顔から伝わってきた。

Featured Posts

Recent Posts

CATEGORY

Follow Us?

画像はダミーです。

© 2016-2017 by Onomichi Tenohira Kwaidan

尾道てのひら怪談実行委員会・尾道市立大学地域総合センター

bottom of page