第1回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『夜店』
作品タイトル: 夜店
筆名: 御手洗
おやいらっしゃい。あぁ、観光で来たん。夜店も初めてかい。いろいろ見ていきんさいよ。そんな風に、魚の干物を売る露店のおばさんが声をかけてくれた。 尾道の商店街で夜店をやっていると聞いて、冷やかしに行ってみた。アーケードは明るく、露店が多く軒を連ね、賑やかだった。どこか懐かしい感じがした。わたあめ、イカ焼き、ベビーカステラ。甘い香りをたどりながらアーケードをくぐる。お面にヨーヨー、金魚すくい。おもちゃ屋の前には大きなウルトラマンの像が立っている。 「さぁ、いらっしゃい」 どこかで聞いたことがあるような声がした。ふと横を見ると、先ほどのおばさんによく似た人が、露店で干物を売っている。本当にあのおばさんにそっくりな人だった。 さっき通り過ぎた店にいたのに? そんなバカな、と思っていた。仁王立ちするウルトラマンの姿を再び見るまでは。今にも飛び立とうとしているそのポーズをはっきりと覚えていた。よく見ると、像が置いてあるおもちゃ屋もさっき通り過ぎたはずの所だ。 おかしい。曲がったり、ましてや引き返したりもしていない。同じ店の前に出ることはないはずなのに。アーケードはどこまでも長く、そしてどこまで行っても終わらなかった。 「あぁ、出られんくなったね」 またあの声が聞こえた。見ると、あのおばさんが露店で干物を売っていた。 「この商店街は時々悪戯してねぇ。観光で来た人を放したがらんのよ。何か買うてってくれ、買ぅてかんと放さんぞ、言ぅてね。こっから出られんのじゃろ?」 私はうなずくことしかできなかった。彼女は皺だらけの顔で笑った。 「まぁ、慌てんさんな。ゆっくり買いたいものでも考えるんだね。何か買ぅてかんことにゃ、こっから出られりゃせんのじゃけ―」