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第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『鬼退治』

  • onomichikwaidan
  • 2021年2月10日
  • 読了時間: 2分

作品タイトル: 鬼退治  

筆名: 朔馬 瞠

 誰か、自分を退治してくれないか。  いつのまに、こんなに大きくなってしまったんだろう。存在したいと思ったことは一度もない。いつの間にか存在し、自分であり自分でない者を苦しめる存在となっている。自分はきっと選択を誤った。その誤った選択を修正できずじわじわと染みのように体を蝕み、暗闇に現れたんだ。胸の中の暗闇が、自分の存在を存在たらしめている。  帰り道、桜土手を歩く。桜の季節以外は何の変哲もない川沿いの道だ。それでもここを歩くのが好きなのは、この地で育ったからだろう。そういえば、山の上にあった尾道城がなくなった。特別な史跡ではなかったらしいが、小さいころから見てきたあの城は自分が見てきた小さな歴史があった。天満町には、イオンが新しくできた。昔のニチイの方が好きだったと思うのは、自分が歳を取ったからだろう。尾道の東の方には、艮神社がある。鬼門から抜け出してくる悪鬼からこの地を守る神社ともいわれている。もしかしたら、艮神社へ行けば自分を退治してくれるだろうか。そして…いや、人生やり直せるなんて嘘だ。人生をやり直すことは出来ない。失敗も誤りも全部抱えて、そのまま進むしかないんだ。 「ママ」 突然、左手が温かくなった。一秒ほどの間のあと、

「あっくん、ごめん。ママ、ぼおっとしてたよお」と、私が言った。ああ、本当にいけない。すぐ頭の中を闇に染める癖、どうにかしなくちゃ。もうアラフォーで子どももいるというのに、中二の頃の癖がまだ抜けない。

「みてみて、ママ。とりさん、いるよー」  心の中にはたくさんの闇がある。鬼がいる。子どもが出来たことで生まれた鬼もいる。それでも今は、あっくんのこの可愛すぎる笑顔を見ていたら、きっと何度でも鬼退治できるんだ。

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