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第2回尾道てのひら怪談林良司賞受賞作品『私の幽霊、孤独と迷子』

作品タイトル: 私の幽霊、孤独と迷子  

筆名: 後藤 千穂

 集団行動が苦手な私にとって、修学旅行は我慢の時間でしかない。せっかく宿に着いたのに、リーダー格の瑠香が玉の岩を見たいと言い出した。同室の子たちは誰も逆らわない。いつもなら、仲間外れになることを恐れて従う私だったが、その時は宿に残ると主張した。もううんざりしていた、狭い世界のカーストに。それに私は極度の方向音痴だ、誰かと一緒にいても一人だけ迷子になってしまう。それを度々バカにされることにも疲れていた。  みんなが出かけた後、窓の外を見て気がついた。遠くに玉の岩らしきものが見える、薄暗い中、岩のてっぺんあたりが丸く光っている。一人だけ残ったことを後悔しかけていた私の気持ちが、すこし慰められた。いつか一人旅をしてここを訪れたら玉の岩を見に行こう、私は部屋の柱に記念の文字を刻んだ。  私は寝たふりをして、戻ってきた瑠香たちの話を聞いていた。玉の岩には着いたものの、光る玉はなく真っ暗だったようだ。瑠香たちはきっと全く別の岩を見てきたんだ。なんだ、みんなだって私と同じ方向音痴じゃん。窓から見えるのに、光っている玉。私は、自分だけ単独行動をしたことに満足して眠った。  修学旅行のシーズンだったが、その宿は空室があった、しかも私が二十年以上も前に訪れたあの部屋だ。中学生だった私があこがれていた一人旅、玉の岩との再会だ。宿に着いて私は窓を開けた。玉の岩はなかった、夜になっても光は現れなかった。この部屋ではなかったのだろうか、そうだ、あの柱を見れば。部屋の柱には、私が刻んだ文字があった。  記憶違いではない、私の当時の日記帳が残っている。宿の場所も、この部屋の名前も、あの日の出来事も記してある。玉の岩を目指して宿を出たが、方向音痴の私はたどり着くことができなかった。まぁいいか、窓の外に光を見つけたあの日から、私は一人でいることも、迷うことも怖くなくなったのだから。

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