第2回尾道てのひら怪談東雅夫賞受賞作品『鯖大師』
- onomichikwaidan
- 2021年2月10日
- 読了時間: 2分
作品タイトル: 鯖大師
筆名: 斎藤風狸
小学校一、二年のころ、夏休みに訪れた祖父の家で変なものを見た。海辺の町の暗い古い屋敷。「入るな」と言われていた奥の部屋に迷いこんだら、木製の仏像があった。畳の上にじかに置かれていたと思う。 六十センチほどの高さ、袈裟をまとった立ち姿で錫杖を持っている。異様なのは、頭の部分が円錐形をしていることだった。不思議に思い、横に回って眺めると、円錐にまん丸な目玉がついていた。魚だ。仏像の頭を切り取り、代わりに鯖の頭をくっつけたようなものだった。目の下には鰓もある。無表情な魚の目がじろりと私を見た。私は悲鳴を上げた。 やってきた祖父に、「あの化け物は何」と訊くと、「鯖大師さまだ」と答えた。 「怖いもんではない。魚の神様じゃ。大師さまをお祀りすれば、海に魚がわいてくるんじゃ」 そういうと、像の前に座って手を合わせ、お経のようなものを唱えた。 「大師さまといっても、仏ではない。神様だ。本尊は竜宮で眠っておられるが、分身を勧請しておる。横浜あたりじゃ鯖神といっとるそうだ。海の向こうのアメリカでも祀っとると聞いたが。海はつながっとるから」 祖父の家に行ったのは、その時一度きり。家はまもなく津波で流され、祖父も亡くなった。今では、鯖大師の姿も、祖父の話も夢の中のような気がする。 大学生になって、友人と尾道に旅行した。因島で鯖大師さまを祀っていると聞いて、そのお姿を見に来たのだが、笠をかぶって錫杖を持った僧侶のブロンズ像だった。立派な弘法大師像だ。大きいが、普通の人間の立ち姿だ。なぜ、この像が鯖大師と呼ばれるのかわからない。
私が子どものころ見たものは一体なんだったのだろう。
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