第2回尾道てのひら怪談東雅夫賞受賞作品『尸』
作品タイトル: 尸
筆名: 楽市びゅう
千光寺の観音坂を転がり落ち、尾道の尾の字が尸と毛に分裂してしまった。 尸はシカバネであるのにも関わらず、自ら意思を持ち何れかの方角へ立ち去っていった。毛の道ではどうにも格好が付かない。毛道は尸を探しに出た。 尸が公共の交通機関に乗るとも考えづらい。向島や因島までは出てなかろうと推測した。 初めに当たりを付けたのはラーメン屋であった。「尸とて腹も減っていよう」と毛道は考えた。しかし駅周辺を軒並み訪ねても、「シカバネがラーメンを注文していった」などという話には出逢えずに終わった。 次に毛道は本通り商店街を西から東へ歩いたが、やはり尸は見つからなかった。毛道はやむなく交番に行方不明者届を出した。 毛道は尸がどこかで悪さをしているのではないかと案じたが、特段そういった話も聞こえてこない。思えばあいつにも窮屈な思いをさせてしまったかもしれない、自由にさせてあげようか、そんなことを考え始めていた矢先、一報が入った。 尸は駅の中に隠れていた。 「尸や、俺のところが辛いならば戻ってこなくてもいい。自分の意思で、人様には迷惑をかけないように生きてくれれば、いや死んでるのか。過ごしてくれればそれでいい」 毛道はそう言って千光寺へ戻ろうと背をむけたが、尸はしばらく考え込んだあとで毛道に跨った。 尾道は独りごちた。 「そうかい、戻ってきてくれるか。さっきはちょっと格好付けてあんなこと言ったけど、やっぱりお前と一緒がいいなあ」 駅から尸が飛び出し、残された馬と丶はヒヒンと鳴いた。
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