第2回尾道てのひら怪談光原百合賞受賞作品『祈り』
- onomichikwaidan
- 2021年2月10日
- 読了時間: 2分
作品タイトル: 祈り
筆名: はちみつレモン
造船所の大きなクレーンが折り鶴に似ていると思うのは私だけだろうか。尾道からは向島の造船所がよく見えるので、クレーンを見るたびにキレイにおりこまれた折り鶴の頭を連想する。原爆の日を明日に控えた今日は、なおさらそう思う。 夜、電車の音が聞こえたような気がして意識が浮上した。真夜中に違いないことはわかるが、時計を見ると目が冴えてしまうので意地でも見たくない。ぎゅっと目をつむってベッドの中で涼しい部分を求めて寝返りを打つ。そんな場所がなくなった頃、諦めてスマホを確認する。午前3時過ぎ。夜でもないが朝でもない不思議な時間だ。
もう目は冴えてしまった。水でも飲もうと起き上がって、ふと線路が気になった。 尾道は海に近く、山にも近い。でも、地元民の私からしてみれば電車に近い町だ。海と山の中央を境界線のように線路が通り、場所によっては柵のない近距離を電車が通っていく。 私の家もドアを開ければすぐ線路が見える。そっと家から出ると、人や電車の気配がないことを確認して踏切に入った。 ちょっとレールを辿ろうとして枕木を踏むとポーンと音がした。次の枕木を踏むとまた音がする。続けて踏むとわかった。『いい日旅立ち』だ。尾道駅で流れているのを毎日のように聴いている。楽しくなって次々踏んでいると、視界で何かが動いた。造船所のクレーンだ。それはぎこちなく動き出したかと思うと、次第に滑らかに、体(?)を動かしだした。そして翼を広げ、鳥のように空へと飛び立っていった。 私は鶴が広島へ飛んだのだと思った。今日は「原爆の日」だから。 気がついたら私は部屋のベッドで寝ていた。起きて向島の造船所をじっと見てみたが、クレーンの数なんて覚えていないので変化があったかどうかは定かでない。
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