第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『探さないでください』
作品タイトル: 探さないでください
筆名: シンオカコウ
目が合った、と思った。 海沿いを散歩中、通り過ぎようとした自販機の側面に、目のような絵が描かれていた。ストリートアートだろうか。商店街でも、本当はいけないのだろうが看板や壁に絵や文字がかかれているのを見かけたことがある。どれも大きくも派手でもなく、少なくとも自分には治安の悪さを感じさせるものではなくて、それがなんだか微笑ましかった。 目の絵を眺めてみると、シンプルだが不思議な目力があって、思わずスマートフォンを出して写真を撮った。他にもあるかと探して歩くと目に入るのか、その日から数日、別の場所でもみつけた。 海と歩道を隔てる塀に。 潮風の吹く広場のベンチに。 向島へ渡るフェリーの船体に。 はじめは、海の近くに作品を残すアーティストでもいるのかと胸が躍って、みつけるたびにいそいそと写真に収めていたが、次第に妙な気分になってきた。以前はフェリーに目の絵などなかった。明らかに、増えている。
撮った写真が十枚を超えたころ、最寄りのバス停の時刻表に描かれた目に出くわしてから、探すのはやめた。
ある朝。玄関から出て鍵をかけようと振り返った瞬間、凍りついた。 ドアにあの目があった。 目が、合った。
了
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