第2回尾道てのひら怪談佳作受賞作品『三ツ首様の約束』
作品タイトル: 三ツ首様の約束
筆名: 詞使
今は昔の話である。尾道の海べりにある貧しい家に、賢く働きものの美しい娘が一人住んでいた。そう言った娘には思わぬ吉が訪れるもので、なんと名家の子息が娘に求婚してきたのである。身分差は大きいが双方の両親からの許しも得られ、二人はすぐに結婚を決めた。
しかし、天は思わぬ仕打ちを二人に寄越した。いざ婚儀をという時に、娘の両目に腫れ物ができたのである。これが中々治らず、夫に恥をかかせたくない娘は酷く嘆いた。その嘆きぶりを人々は哀れんだが、何をしてやることもできない。いつしか、娘は幽鬼の如く辺りを彷徨うようになっていた。 そうしたある日のこと、何時ものように彷徨い出ていった娘が明るい顔で戻ってきた。その目から腫れ物は消えている。驚く両親に、娘はこう話した。 『彷徨い着いたお寺で、肩を怒らせた大きな殿方がわたしを慰めてくださいました。そしてその方がわたしの瞼へ触れたとき、腫れ物が無くなってしまったのです。その時、彼はこう仰いました。 「お前は、愛したやつと幸せになるんだぞ」と』 この時、娘が彷徨い着いたのは山辺に建つ海福寺だった。そしてそこには、「首から上の病を治してくれる」という処刑された三人の義賊を祀る「ミツ首様」という祠があった。その上、伝承には『三人のうちの大男は、連行中に心にかかる人を探していた』という話が遺されていたのである。 それを受けて、両家は「ミツ首様の一柱が果たせなかった思いの代わりに娘を助けてくれたのだ」と考えた。そして、何かあると件の寺に参拝するようになった。勿論、婚儀を行う前にも参拝したという。そこで、娘はこう言ったそうだ。 「約束の通り、わたしは幸せになりました」と。
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